貪欲の開花
今年のハロウィン限定の新作企画としては、スタートの企画段階から様々なテーマやモチーフ
の候補がありましたが、やり尽くされてありきたりかもとは考えつつもあえてスタンダードなスカ
ルモチーフのリングで作品をつくろうと進めさせていただくことにしました。
今回のデザインのテーマやコンセプトを考えるきっかけとなったのは、自分の私生活の中で改
めて死生観について考えてみたくなったことが切っ掛けです。
F.A.Lでは発足の当初からアクセサリーのゴシックデザインを発想するうえで『ヴァンパイア
(VAMPIRE)』がもつ特徴や印象、その世界観などを着想にデザインしてきました。
これは過去に目にしてきた吸血鬼などを題材にした映画や絵画などの作品を通して、様々に
作り上げられてきたヴァンパイアのイメージに影響を受けてきたことにほかなりません。
人のようで人ではない人外という存在、肉体の強さ、時代背景による文化や服装などの様式
美、忌み嫌われ避けられるべき夜の住人、などといったイメージ。
そんな好きだと感じたイメージを無自覚にインプットしながら、これまでの自分が日常で経験し
てきたことやその見解を足してアクセサリーをデザインするためのアイデアソースにしていま
す。
映画の世界はあくまでフィクションですが、物語の中で起きる事件や事故、そこに巻き起こる人
間関係は奇しくも私生活での出来事と重なるような場面があったりもします。
大切な人を失ってしまうことや長年大切に積み上げてきたことが崩れてしまうことなど。そんな
できごとを目にしたときに自分はその人の人生をどれだけ知っていて何ができたのか?、自分
がその立場であったらどう行動するのか?といったことを考えてしまうこともあります。
インターネットの世界で非常識な振る舞いをした人が炎上していることを目にすることでさえ、
それは画面を通して表面的な部分だけを瞬間的にみているだけで、真実やその人の内面のす
べてを知ることはできません。自分でも安全地帯から映画の世界のような日常をのぞいている
ような感覚になることもあります。
それでも非常識な生き方をしている人が、他の誰かにとっては勇気や期待を与えられるような
人であったり、そういった行動に変わっていく物語になることもあるのだろうかと想像してみたり
もします。
個人的には、例えば自由な音楽活動を通して、他人のことばかり気にして息苦しい生活を送る
ことをやめろと叫び、周りからは非常識だと言われても自分らしい選択をしながら進んでいく先
に、勇気や希望を与えられる存在に成り変わっていくような方を素敵だなと感じることもありま
す。
自分自身の欲求に貪欲に生きていくことは、社会の常識的な角度の見方からすれば気持ちの
良いものに見えないかもしれませんが、そんな生き方を選んだ人たちが最後には社会や周り
に想像もしなかった良い変革をもたらして終えていく。
できればいま醜く見えるかもしれない存在だったしても、最後は良い物語とされる結末であって
ほしいなと考えてみました。
人に理解や共感を得られ難い生き方ほど苦しいことでしょうが、それでも自分のことを信じて貪
欲に藻掻き進もうとする人が、このリングに何かを感じて自己表現するために使ってもらえたら
嬉しいです。
そんな想像から今回のグリンツリングを完成することができました。
その貪欲さの先に美しい桜が咲いていることを願っています。
F.A.L designer / Yoshiyuki Yamamoto
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